第161章 劣情
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――――――とても眠れなかった。
だってそうだろ。
どんな地獄絵図を見たか。
目に焼き付いて離れない………悪魔の号令によって、無残にバラバラになって死んでいった仲間達。頭を吹っ飛ばされたマルロなんてまだマシだったんじゃないか。
腕が捥げて、足がぶっ飛んで……それをはっきりした意識で見て、苦しみもがいて、息絶えた奴もいただろう………。
疲労はあるはずで、すぐに眠れると思って布団に入った。
けれど気付けば辺りは明るくなり始めていて、一睡もできないまま、もうすぐ夜が明けそうだった。――――横目でちらりと同室のアーチを見ると、すやすやと寝息を立てている。
――――いいよな、後から来たこいつは………闘わず、地獄も見ず……大事な兄貴も失わなかったんだ。
そりゃ、眠れるだろうよ。
激しい苛立ちをどうにかしたくて、部屋を出た。
廊下をぼんやりあてもなく歩いていると、少し先の廊下を―――――ふらふらと白いワンピースを来た長い髪の女が通った、気がした。
「――――っなんだ……?!」
こんな時間に、誰だ……?様子がおかしかったぞ……。……まさか幽霊……?!
「――――こんだけ死んだんだ……ま、幽霊が出てもなんらおかしくないけど……。」
恐怖心はあったものの、なにより束の間、あの地獄を思い出さなくて良いならと……その幽霊の正体を突き止めてやろうと思った。
俺はそっと後をつけて、廊下の角を曲がると―――――
「………いない……?!」
確かにそこにいたはずの女が、どこにもいなかった。
俺は慌てて廊下から中庭の方を見渡したり、その廊下の更に先の角まで様子を見に行った。――――けれど結局その女は消えていて………まさか本当に幽霊だったなんてことは、ねぇよなと……少し怖くなった。
「――――部屋、戻るか……。」
あまり考えすぎないでおこうとその場を後にしようとした時、きぃ、と扉が揺れる音がした。