第160章 虚無
「――――…っ、ぁ……。」
「――――……ナナ……落ち着け。ゆっくり息をしろ。」
「………ッ、は、っ、あ………。」
「――――まだ、だな。」
「………ん、っ………はぁっ………。」
再び深く口付けるのは………落ち着かせるためだ。
そう言い訳しながら――――ナナに覆い被さり、両手でナナの顔を押さえて呼吸を遮るほどの激しい口付けで捕らえる。
抵抗するように俺から顔を背けて、俺の腕から逃げるように空に手を伸ばす。
俺はそれを、また強く強く抱き止める。
「………た、す……けて……。置い、て……いか……ないで……っ……。」
「――――ナナ。俺がいる、ここに。」
「――――一緒に、いく……。エルヴィンと、一緒に――――………。」
ナナの震える指が、エルヴィンを探すように宙を彷徨う。そこにあいつがいるかのように、懸命に手を伸ばして――――また、悲鳴のような声で泣く。
「――――いかせない。」
「――――やだっ……、死も……共にって、言った―――――……。行かなきゃ、わたし……側に、ずっと――――……。」
「――――いかせない。ナナ。お前は俺の側で生きるんだろう?」
助けて欲しいのか、死なせて欲しいのか。
辻褄の合わない言葉から、ナナが錯乱状態に陥っていることがわかった。
ナナをあやすようにひたすら、俺の鼓動の早さで背中に回した手でリズムを打つ。
とん、とん、とん、と―――――髪を撫でながら、どこにも行けないように、繋ぎ止めるように何度もその名を呼ぶ。
「――――ナナ。……お前は大丈夫だナナ。ここにいる。――――俺が側にいる。なぁナナ……。」