第160章 虚無
――――――――――――――――――――
作戦から帰還したみんなの手当を終えて、入院の手続きも完了した。新しく団長に就任されたハンジさんの執務の負担を少しでも軽減できるように、あらゆるものを引き受ける。
壁外調査後の処理は作戦決行前と同等に多くの執務が付随するから。
――――正直、自分がなにを、どうして、動いていたのか――――あまり記憶がない。
何かにとりつかれたように、ただ何かを遂行していないと、正気を保てないとわかっていたのかもしれない。
――――共に歩むと決めたエルヴィンがもういないなら、私は――――――……一緒に逝く。だってそう言った。エルヴィンが望んだから、私は叶えたい。叶えなきゃいけない。
―――あぁそうだきっと、私が病を患ったのはこのためなのかもしれない。
目の前がぐらぐらと揺れる。
――――リヴァイ兵士長の顔も見られないまま、混濁していく思考を制御できずにただ、俯いた。
「――――死にたいのか?エルヴィンの後を追うつもりかお前は。」
「――――……違います……。」
そう、違う。
後を追って死に逃げるなんて弱い私を誰も赦してくれない。
頑張らなきゃいけないの。
頑張った先の死でないと、赦されないの。
「――――じゃあ休め。もしくは――――ケリがつけられないなら、つけてこい。明日には――――……火葬が行われる。もう会えなくなるぞ。お前がそうやっておかしな意地を張っている間に。いいのか。」
「――――………。」
会う?
誰に?
もう私を見ない、呼ばない、笑わないエルヴィンに?
鼓動を感じない、もうそこに彼の魂はないその亡骸に――――……会ってどうするの?
またあの冷たい肌に触れて、精悍だった彼の変わり果てた顔を見てどうしろって言うの?
別れを告げるの?
――――いやだ、別れたくない。
死に引き裂かれたりなんかしない。
私はずっと―――――そばにいるよって、言った。
だから………赦される死に方を、私は探している。