第160章 虚無
涙を流す人、抱き合う人、崩れ落ちて膝をつく人。
――――それぞれが全身で喜びを表現する中、英雄たちがリフトで降りて来た。
そんな中にエレンやミカサ、アルミンの姿を見つけて、涙が沸き上がった。
――――荷馬車を降ろそうとしている。
負傷者がいるんだ、私は急いでそのリフトに駆け寄った。
―――――そこには、リヴァイ兵士長とハンジ分隊長の姿。
ざわ、と嫌な予感がした。
―――――エルヴィン団長が怪我を、してるんだ………!
震える足をなんとか進めて、リフトの側まで寄ると、リヴァイ兵士長と目が合った。
興奮のあまり息を切らしながら、その言葉を伝える。
「――――おかえり、なさい……!!」
「………ああ。」
リヴァイ兵士長は目を逸らして、目線を下げた。
「エルヴィン団長……!怪我ですか?!早く、手当します!!!」
荷馬車に横たわる大きな身体は、見間違えない。
間違いなく彼だ。
左手を胸に乗せていることにホッとした。
良かった、また腕を怪我したら大変だって……思ってたから。
治すよ、私が。
――――そう思って荷馬車に近づいた私を、リヴァイ兵士長が腕で遮った。
「―――――他を優先しろ。」
「―――――え……?でも…………!」
困惑する私に、リヴァイ兵士長は深く眉間に皺を寄せた顔を――――、俯かせた。
その唇は、噛みしめられている。
――――そう、そういえば……なんで、ハンジさんが……いつもみたいに……『ナナ!!帰ったよ!!』って………笑って………くれないんだろう………。
リヴァイ兵士長の横で……俯いて、なぜ………私を見ない………?
――――極度の緊張から細くなった気管に、不安と恐怖で荒くなった息遣いのまま吸い込んだ空気が、ひゅ、と鳴った。
「――――エルヴィンは―――――もう、死んでる。」
「―――――――………。」
――――――――――私の世界は無になった。