第160章 虚無
「――――そうか、お主は団長の片腕じゃからな。……エルヴィンもお主の元に戻る事を執念として帰ってくるじゃろう。――――いてやれ、ここに。ただし、体をちゃんと休めておけ。――――帰ってきたら、団長は大忙しじゃぞ?」
「――――はい……!」
「――――まったく、美女にはとことん甘いですね。」
アンカさんの冷ややかな一言が面白くて、ふっと笑ってしまう。
「まぁな……それにナナは……儂が行く末を心配しとった厄介な男の嫁候補じゃからな。」
「エルヴィン団長にとっては、余計なお世話だと思いますよ。」
「そうか?儂なりに可愛がっとるんだが?あのそつなく優秀で――――、実は脆い、いい男をな。」
“厄介な男”をすぐにエルヴィン団長だと結び付けて話が進むあたり、副官のアンカさんにはピクシス司令は色々と漏らしているんだなと、それもまた面白い。
そして――――、ピクシス司令がエルヴィンの事を気にかけて下さっているのは、随分前から感じてた。
私はそれが――――とても嬉しい。
「……ピクシス司令は、エルヴィン団長のことを……よく、ご存じでいらっしゃる。」
ふふ、と私が笑うと、ピクシス司令は南の空に目をやった。
「ああ……あやつの苦労が、苦悩が……報われていると、いいがのう……。」