第159章 地下室
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ついに俺達は辿り着いた。
自分の故郷に。
自分の生まれ育った家に。
破壊されて吹っ飛んできた元壁の一部だった巨大な岩に押し潰された屋根は二階から一階までまとめて崩落していて、元々の家屋の原型すら想像ができないほどだ。
その様相はあの日のままなのに――――、もう昔のことだというみたいに俺の家は草木で覆われ、苔が蒸していた。
あの日瓦礫の山から砂埃が舞っていたことが嘘みたいに、柔らかな緑が地を包んで―――――……その中に、あちこちが黒く変色した……靴が落ちていた。
―――――母さんの血が染み込んだ、母さんの……靴だ。
力を合わせて瓦礫を取り払い、ようやく地下室への扉を開いた。
「よかった、水は溜まってないみたいだ。」
ハンジさんがライトで地下室への階段を照らす。
ガキの頃あんなに入ってみたかった地下室。
俺は……少し、怖かった。
そんな俺の様子を察したのか、ミカサが俺の肩にとん、と手をやる。
「行こう。」
兵長が先頭に立ち階段を降りて、目の前には金属の鍵で固く閉ざされた扉。震える手でその鍵穴に、俺の持つ鍵を差しこんだ。
「えっ……?!」
「エレン?」
「どうした?」
「なんだ、早くしろ。」
―――――どう見ても、この扉の鍵じゃない。
「この鍵……この扉の鍵じゃない……。」
「――――どけ。」
兵長が俺を押しのけて――――、バキッッ!!!と………想像通り、簡単にその扉を鍵もろとも蹴り壊した。
兵長がいれば……最初から鍵なんて必要ないんじゃ……。
重い扉を開けて足を踏み入れたそこは―――――、まるで時が止まって俺達を待っていたような……綺麗に整理された、父さんの――――仕事部屋だった。
狭い部屋の壁には薬品や書物が並ぶ棚、部屋の中央には書き物をしていたのであろう、ランプやペンがそのまま置かれた古びた机。
ハンジさんや兵長が慎重に部屋のあらゆるものを手にとっては、確認をするけど――――
……一見してただのいち医者の仕事部屋で、それらしい秘密はどこにもなかった。