第158章 ウォール・マリア最終奪還作戦⑤
「どいつもこいつも……ガキみてぇに……わめき散らしやがって……。」
エルヴィンの腕に注射器を宛がうと―――――……これまでのことが脳裏に蘇る。
エルヴィンは未だに……ナナが共にいない日は……眠らないことを俺は知っている。
特攻する前……地下室に行きたいと、本音を漏らしたあの時も……エルヴィンには見えていたのだろう。これまでに自分が死なせてきた仲間達が。
――――エルヴィンを再び蘇らせて……しかも巨人化という新たな付加価値までつけてしまえば、確固たる人類の反撃の象徴になる。
この地獄さながらの戦地に呼び戻して――――……また多くの命の責任を負わせて……エルヴィンは幸せか?
――――ナナが共にずっとエルヴィンに添ってその苦しみを、痛みを共に背負ってやれるならいい。だがナナの命が本当にあと僅かだとしたら……これまで以上の重責を背負わせて蘇らせたあと、エルヴィンがナナを失ったら――――……エルヴィンは、どうやってこの地獄で……その翼を休めりゃいい……?
生きている限り、苦しみ進み続けるのか?
――――わかってる、今俺が葛藤しているのは……兵士長としての正しい思考じゃない。
明らかな私情だ。
だがどうしてもエルヴィンの腕に、針を刺せない。
―――――俺の生き方を変えてくれたお前に、苦しすぎる生き方を俺は―――――強いたくない………。
その時、エルヴィンがまるで注射を拒否するように左腕を頭上に上げた。