第158章 ウォール・マリア最終奪還作戦⑤
「さっきアルミンに使うって……!」
「俺は人類を救える方を生かす。」
エレンの顔が凍りつく。
背後で、ついさっき合流して信煙弾を放ったミカサが――――信煙弾の銃身を投げ捨て、刃を抜く音がした。
俺から力づくで注射器を奪うつもりか。
「お前ら……自分たちが何をやっているのか……わかっているのか?エルヴィンを……調査兵団団長を、見殺しにしろと言ってるんだぞ?」
――――毎度毎度思う。
神とやらが本当にいるのなら。
クソほど意地が悪い。
わずかでもタイミングがずれていれば……どちらかが息を引き取っていたら……俺達はこんな最悪の選択をせずに済んだのに。
「時間がない。邪魔をするな。」
注射器の箱を開けようとした俺の手を、エレンが阻む。
「エレン……私情を捨てろ。」
「私情を捨てろ?さっき……注射をすぐに渡さなかったのは何なんですか?」
「……エルヴィンが生きている、その可能性が頭にあったからだ。」
「フロックが瀕死の団長を運んでくるなんて……まったくの予想外だったはずです。」
「その通りだが。ここにエルヴィンが現れた以上、エルヴィンに使う。」
決定事項として伝えても諦めずにその手に力を込めたエレンを、力の限り―――――殴り飛ばした。
と同時に、キレたミカサが俺に馬乗りになって刃を突き付けた。
――――クソが、あれだけ戦った後じゃなきゃ……ねじ伏せられたんだが。……いつもほど、力が入らねぇ。興奮した獣のような目をしたミカサを、諭すように話す。
「お前らも分かっているはずだ。エルヴィンの力無しに人類は巨人に勝てないと。」
俺に吹っ飛ばされたはずのエレンが、まだ起き上がる。
「アルミンがいなきゃ……勝てない……!トロスト区を守ることができたのも……、アニの正体を見抜いたのも……、夜間に進行することを思いついたのも……アルミンだ。潜んでいたライナーを暴き出したのも!ベルトルトを倒すことができたのも全部……アルミンの力だ!!!」
――――わかってる、アルミンの才能と功績は……人類にとってこれ以上無いほどのものをその頭脳で齎してくれた。
だが、エルヴィンの代わりにはなれない。