第158章 ウォール・マリア最終奪還作戦⑤
俺は情けなくも嗚咽を上げながら、なおも生きている兵士を探して彷徨った。
そして―――――僅かに胸を上下させている兵士を、見つけた。
今度は頭が吹っ飛んでいないか恐る恐る確認して―――――、驚いた。
「―――――エルヴィン団長………。」
沸き起こるこの感情はなんだろうか。
わからない。
混沌とし過ぎていて。
ただ心地良いものでないことは確かだった。
なぜなら俺は―――――すぐに止血を試みることも、声をかけることもしなかった。
ただ静かに刃を抜いていた。
「―――――俺達にこんな惨い死に方を強いたあんたが――――……なぜ生きてる……?」
――――殺そう。
誰も見ちゃいない。
エルヴィン団長は、マルロやその他の兵士と同じく……獣の巨人の投石によって死んだんだ。俺がここで新兵みんなの無念を晴らしたら―――――、少しは浮かばれるのか?みんな………。
刃を振り上げた一瞬に脳裏をよぎったのは―――――……ナナさんのことだった。
――――恋人だって聞いた。
エルヴィン団長が死んだら………ナナさんは泣くのだろうか。悲しむのだろうか。
――――いや、それがなんだ。
俺には関係ない。
――――むしろこの男だけが生き残って愛する女の元に帰るなんて、そんなことが赦されていいのか?
頭の中がぐちゃぐちゃだ。
色んな葛藤が渦を巻いて、正常な思考ができていないことは自分でもわかっていた。
「――――死ぬより苦しい、地獄を見るべきだ……あんたは。もっと、もっともっと………!」
そうだ。
死んだら全てから解放される。
自分が多くの兵士を殺したという罪悪感からも、人類の命を背負うという重責からも。
無責任に解き放たれる。
――――そんなことは赦さない。
俺は刃を収めて、驚くほど冷静に止血の処置をした。
その大きな身体を背中に背負って、リヴァイ兵士長を追って―――――……シガンシナ区の方へと、歩き出した。
――――この悪魔を再び、地獄に引きずり戻すために。