第158章 ウォール・マリア最終奪還作戦⑤
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―――――なんで俺は生き残っているんだろう。
落馬して……脳震盪でも起こしたのか、気を失っていたけど……手も足もついてる。身体のどこにも、穴は開いてない。
――――生きてる。
震える両手を見て、震えているということは生きているんだと、実感した。
「なんで……俺……生きてる……のか……?」
周りを見渡せば……無謀な特攻の末に投石に打ち砕かれ、手足を捥がれ、内臓をぶちまけて死んでいる兵士達。
「誰か……おい………生き残った奴は……いないのか………?」
俺と同じく、どこかにまだ息のある兵士がいるかもしれない。ふらふらとよろつく足で、血に塗れた平野を彷徨った。
そしてその時に見たのは、何体もいる大型巨人と戦う、リヴァイ兵士長と――――サッシュ分隊長。
巨人の血しぶきをあげ、屍を量産して殺しまくる姿は―――――心強いと同時に、悪魔のようで恐ろしい。
そうだ、あんなべらぼうに強い人間じゃなきゃ、到底巨人なんて相手にできない。
なんで俺は、俺のことを特別だと思ったんだろう。
人類を救える英雄になれるって、なってやるって……調査兵団に編入した。
――――そんなに甘いものじゃなかったんだ。
揺らぐ視界の中で、見覚えのある黒髪の変な髪型の男がうつ伏せに倒れている。
短い期間に過ぎなかったけど、同室だった―――――
「マルロ!!!おい!!しっかり―――――」
伏していたマルロを抱き起して―――――、俺は後悔した。
マルロは……顔の左半分が頭ごと、吹っ飛んでいた。
思わずその惨すぎる遺体を投げ捨てて、俺は吐いた。
「――――っおえええっ………、う……ぁああああっ………!」
なんで、なんでこんなことに。
そうだ、やっぱりどうせ死ぬなら―――――自決した方がマシだったよな?
手首でも首でも掻っ切ったほうが、まだ幸せに死ねただろう。どんな恐怖と苦痛の中死んで行ったのかは、マルロの遺された半分の顔が――――、その見開かれた目が、物語っていた。