第158章 ウォール・マリア最終奪還作戦⑤
「……待ってください!!いいんですか?その力……奪えるかもしれないのに……!」
ジャンが言いたいことはわかる。
ライナーを今ここで殺すのではなく、エルヴィンが作戦決行前にみんなに周知した。リヴァイが持つ巨人化の注射器を使って誰かを巨人化させ、ライナーを食わせる。
そうすれば……鎧の巨人の力をこちら側に奪える。
――――だけど……。
「今はリヴァイやあちら側の状況がわからない。それを確認する時間も余裕も無いと思うね。なぜならこいつらの底力は我々には到底計り知れないからだ。」
刃にぐぐ、と力を込める。
そう、現にライナーは……あのリヴァイが首を一閃して心臓を貫いても―――――……こうして生きていたじゃないか。
「首を刎ねてもまだ安心できないよ。」
「――――ハンジさんらしく……ないですね。」
ジャンがいつになく弱気な声で言う。
「わからないものはわからないと蓋をして、この先どうやったら俺達は巨人に勝てるんですか?――――俺達が敵を計り知れるようになるのは……いつですか?」
「――――………。」
不安だろう。
次から次へと未知の脅威が沸いて来て――――……私たちはいつだって後手だ。だから目の前で次々に仲間が死んで行く。
それをこの子達は――――……たかが3カ月で、嫌になるほど見て来た。
せっかくその力を奪える好機を――――逃すべきでないというジャンの主張はもっともだった。
――――私はミカサにエレンとアルミンの元へ、状況を確認しに行かせた。リヴァイがそこにいれば、注射薬を貰ってくるようにと。
「――――もし何らかの理由でそれが叶わない場合は、信煙弾を撃て。それを合図にライナーを絶つ。」
「―――了解です。」
ミカサはすぐに飛び立った。
ジャンはどこか申し訳なさそうに俯いた。
「……ハンジさん、俺は……。」
「私の判断だ。君のは判断材料。」
「――――はい………。」
――――どうなってる?
エルヴィン、リヴァイ。そっちは。無事か?
――――しきりに聞こえていた砲撃音のような音がやんだ。
エルヴィンとリヴァイが……獣を仕留めたんじゃないかと、淡い期待を抱いてミカサを待った。