第157章 ウォール・マリア最終奪還作戦④
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「――――リヴァイさん……?」
声が聞こえたわけじゃない。
ただその時吹いた優しい風が―――――、いつも彼が私をあやす時に、愛おしいと目を向けてくれる時に頬を撫でるその感触に、似ていて………どうにも切ない気持ちになる。
手に握り締めた―――――5年前のあの日に私にくれたクラバットは、もうくたくただ。
何度も何度も、血も、涙も拭ってきたから。
――――まるであなたがそうしてくれたみたいに。
人類最強の彼はきっと私が祈らなくても、待っていなくても、1人ならきっと帰ってくる。
でも……その力で全てを守ろうとする人だから。
誰より仲間を想い、仲間を失うことに心を痛める人だから。
どんなに苦しい状況でも刃を振るって戦って……傷を負ってしまう人だから。
祈りたい。
怪我をしないで。
無事に帰って来て。
――――仲間が傷ついたことで……あなたの心が削がれるなら、抱き締めたい。あなたを。
1人じゃ涙を流せない、あなたを。
「――――帰ったら聞いてくれる約束ですよ……あなたのために歌う歌と……その意味も。」
――――私のヒーロー……。
人類を救う本当の救世主になんて、ならなくてもいい。
偉業なんて成さなくてもいい。
――――キース教官の口から語られた、カルラさんがエレンを想いながら言ったという言葉の意味を、私は理解した。
「――――あなたがただそこにいてくれたら、いい………。」
これはどういう種類の愛と呼ぶのだろう。
とても歪で狡くて……決して冷めることのない……、私が彼に抱く愛情は。
「――――帰ってきて……。」
私の小さく祈る声は、また優しく頬を撫でる風に、攫われていった。