第154章 ウォール・マリア最終奪還作戦
アルミンと話しながら思い返すのはナナのことだ。
作戦が近づくにつれて毎日声をかけてくれた。――――そう、キース教官のところに行った日からだ。
ナナがあの目に俺を映して、
“誰かと、何かと比べなくていいの。エレンはエレンだから。――――誰かが秀でた特別なんかじゃなくて、誰もが特別な個なの。”
そう、言ってくれた。
それはまるで母さんからかけられた言葉みたいで――――、俺の心をとても、落ち着かせた。
そして、数日前にアルミンが言いにくそうに言った、
『ナナさん……病気かなにか患ってるのかな?』
その言葉の真偽はまだ確かめていない。
――――確かに前回ライナーとベルトルトから俺を取り戻してくれた時も、ナナは壁外にこそ行かなかったが、壁上でエルヴィン団長の代わりに残った隊の指揮をした、優秀な補佐官だともっぱらの噂だ。
それを、エルヴィン団長がこの最重要局面と言っていい場面で同行させないなんて………やっぱり少し、おかしいと思う。
でも……エルヴィン団長だって人間で……1人の男だ。
最も危険なこの作戦でナナを失いたくないから、側に置かないということだって………なくはないかもしれない。
いや、今そんな事を考えている場合じゃない。
俺は頭を横にふって、邪念を振り払う。
「………ありがとうな。もう大丈夫だ。多分来年の今頃俺達は――――海を見てる。」
「………うん。」
俺達はまた黙々と闇夜の中の進軍を続けた。
そして――――見えて来た。
俺達の故郷が。