第153章 夕陽
作戦決行は明日、日が落ちてから。
アルミンの発案である、夜に進軍して巨人との戦闘をせずにシガンシナ区まで向かう。サッシュ分隊長率いる、バリスさんやアーチさん、その他編入してきた数名を連れた小隊は、予備の更に予備にあたる装備と馬を引き連れて1日早くクインタ区を目指す。そこでリフトで運搬物を上げて、壁を伝って帰路に必要になるかもしれない物資を時間差で運ぶ手筈だ。
今日の間にトロスト区のリフト下に運べる装備や物資は運搬する。
私は皆が帰って来た時にすぐにトロスト区で治療に当たれるように、門近辺の家屋の一角を借りられるように交渉を進めて来た。
お母様とボルツマンさんに相談の上、数名の医師の派遣もしてもらう。病床と医療器具等の確認もしておかなくちゃ、とバタバタと一日を過ごした。
その日の夕暮れ時に、サッシュさんの小隊を見送るため、トロスト区壁上に登った。
地平線に落ちて行く夕日は辺りを朱く染め、大地を業火で焼いているようにさえ見える。サッシュさんやアーチさんの姿が見えなくなるまで見送って―――――、それでもそこを動けずにいた。
「――――あの、もう……みんな降りますが、ナナさんは……?」
「あ、ありがとう。もう少しここにいます。後で降りるので、ご心配なく。」
私がいつまでも残っているから、フロックさんが声をかけてくれた。
「そう、ですか……じゃあ。」
「はい。お疲れさまです。」
壁の上に一人立ち尽くして―――――大きく息を吸い込んで、沈みゆく太陽に向かって歌う。
それは鎮魂の歌。
ここまで辿り着くために亡くした数多の命を鎮める歌。
気休めにしかならないって分かってる。
けれど祈らずに、歌わずにいられない。
――――どうかまだみんなを、私の大事な仲間を、愛している人たちを………連れて行かないで。きっとみんなの捧げた心臓に報いる未来を勝ち取るから。だから……。
「――――………。」
歌い終えて、振り返らないままその人に問う。