第152章 可惜夜
一糸纏わないナナが、俺に向かって両手を伸ばす。癒しを、赦しを求めるようにその胸に顔を寄せると、ナナはぎゅ、と慈しむように俺を抱く。
――――ナナの肌は、冷たい。
けれど一度唇を合わせれば、その真っ白な肌が薄桃色に色づくほど熱く火照る。
「――――エルヴィン………。」
「――――ん………?」
「――――愛してる。」
――――いつも俺が言うとナナは同じように返してくれる。
だが今日は――――、ナナが俺の頬を両手で包んで、まるでこれ以上の言葉が見つからないと、どうすればこの胸の内がくまなく伝えられるのかと模索しているかのように、キスの合間に何度も何度も俺の名前を呼んで、愛してると言った。
――――あぁそうだ、女型の急襲により大損害を受けて、王都へ俺が招集された時と同じ……いやそれ以上だ。
ナナは怖がっている。
また何かを失うんじゃないかと。
「――――ふ………。」
「なにを………笑うの……?」
「ナナ、そんなに怖がらなくていい。俺達の夢を叶えるためのただの一歩に過ぎない。」
「…………。」
ナナは涙を溜めた目で、俺を見下ろす。
――――月明かりが射す中で見るナナの瞳は、相変わらずこの世のものと思えないほど美しい。