第152章 可惜夜
「ウォール・マリアを取り戻して……襲ってくる敵を全部倒したら……また戻れるの?あの時に……。」
ミカサが小さく呟く。
「戻すんだよ。でも……もう全部は返って来ねぇ。ツケを払って貰わねぇとな。」
「………そう………。」
「それだけじゃないよ……。海だ。商人が一生かけても取り尽くせない程の巨大な塩の湖がある。」
アルミンのその声には、希望が詰まっていた。
「壁の外にあるのは巨人だけじゃないよ。炎の水、氷の大地、砂の雪原。それを見に行くために調査兵団に入ったんだから!」
「あ、ああ……そう……だったな………。」
「だから!まずは海を見に行こうよ!地平線まで全て塩水!!そこにしか住めない魚もいるんだ!エレンはまだ疑っているんだろ?!絶対あるんだから!!見てろよ!!」
「……しょうがねぇ。そりゃ実際見るしかねぇな。――――そうだ、ナナとも約束したからな。海を見せてやるって。」
「でしょ?!約束だからね!!絶対だよ?!」
興奮気味に話すアルミンに、ナナは涙を拭って、ふ、と優しく、嬉しそうに笑った。
そうだ、この明るさに俺達は救われる。
積み上げた仲間の屍の数が増えるごとに、“夢”を見ることすら悪だという良心の呵責に段々と苛まれる。自分のために見た“夢”が――――、やがて自分を追いつめる。
――――エルヴィンもまたそうだった。
ナナに、出会うまでは。
ナナに出会って随分とエルヴィンは変わった。まるで女神に赦されたかのように。
だがそれでもなお、今回の作戦に行くと聞かねぇのは―――――、おそらく、自分の夢のために失わせて来た仲間の命に、心臓に―――――報いるためだ。
アルミンの話を膝を抱えて微笑みながら聞き、嬉しそうに俺を見上げたナナの頭を引き寄せて腕に抱く。
もし……もしこの作戦で俺達が誰も生きて帰れなかったらお前はどうなる?
だが、だからと言って連れて行って目の前でお前が死んだら―――――俺は……どうなる……?
――――罪な女だ。
離れていても、側にいても――――……こんなにも苦しい。