第152章 可惜夜
「――――一人だけを愛することが正とされてるこの世の中で、私はどうやっても2人の人を愛してしまっているので……嫌悪されることも、理解されないことも、受け入れてなんてもらえないことも承知です。でも、それが私だから。」
「――――変な女だな。」
「あ、『変な女』それも入れておきます。」
ナナがまたふふ、と笑うが、俺を心配させないように振る舞っていることは明白だった。
本当は――――、不安で、怖くてたまらないはずだ。
微妙な沈黙の中冷たい夜風が流れたかと思うと、俺が蹴り飛ばしたためにふらついているエレンを抱えて、アルミンとミカサが連れ立って食堂から出て来るのが見えた。
「――――ナナ、来い。」
「え。」
ナナの腕を引いて、物陰に隠れる。ちょうど俺達が身を潜めた建物のすぐ表で、エレンとミカサとアルミンは話を始めた。
「――――教官に会って良かったよ。俺は……やれることをやるつもりだ。でも……そうだな、楽になった。……ナナのあの言葉で。」
エレンの言葉を聞いたナナが、その目を大きく開いた。
「考えてもしょうがねぇことばかり考えてた。なんで俺にはミカサみたいな力がねぇんだって……妬んでた。俺はミカサやリヴァイ兵長にはなれねぇからダメなんだって……。でも……ナナが言ってた、何かが特別なんじゃなくて、 “個” なんだって。だから俺達はそれぞれが自分にできることを見つけて、それを繋ぎ合わせて大きな力に変えることができる。――――人と人が違うのは、こういう時のためだったんだ。」
「うん……きっとそうだ。」
エレンの言葉に、アルミンがしっかりとした声で同意を示した。ナナが伝えたかったことは、エレンにもアルミンにもちゃんと伝わっている。それを聞いて、ナナは――――俯いて、涙を零した。
自分は戦えない、何もできない、そういう思いに苛まれながらナナはここにいる。
だが――――、何もできないわけじゃない。
こうやって大事なことを気付かせることが出来ている。
エレンはちゃんと前を向く。
お前のおかげだ。
ひく、と小さく肩を揺らすナナの頭を、ぽんぽんと撫でる。