第152章 可惜夜
「んむ?」
私の横で柱に括られてたサシャが、ぱち、と目を開けた。
「あ、目覚めた?」
縄を解いてあげたいところだけど、あっちでは喧嘩が始まってるし……またサシャがお肉を奪いに参戦したら大変なことになるな……と悩んだ末、私はサッシュさんにもらったお肉を、サシャは縛り付けたまま口に運んであげることにした。
サシャの口枷を取ると、ぷはっと息を吸ってサシャが懇願するような目で見上げる。
「ナナさん……ほどいて下さい……。」
「いや、あの……大変なことになるって聞いたから……。」
「えぇえええ、私の肉がぁぁああ!!」
「あっ、それはここにあるよ、食べさせてあげるから!!」
「マジかや?!」
サシャの咄嗟に出る方言が可愛い。
ふふ、と顔を綻ばせて、サシャのところにしゃがんで口元にお肉を持って行く。
「がぁあああ!!」
「うわぁああ!ちょっと!!そんな食らいつかなくてもあげるから!!!」
あまりの迫力にびくっとしつつも、なんだかとても……壮絶な戦いの前だとは思えないくらい、温かくて幸せな時間だ。
サシャが猛獣のようにお肉を貪り食った頃、どごっ、と大きな音が中央の辺りで二回聞こえた。
驚いて立ち上がって背伸びしてみると、――――あぁ……リヴァイ兵士長の逆鱗に触れたのか、エレンとジャンがのたうちまわっている。
「あらら………、ごめんサシャ、ちょっと診てくるね……。」
「ふぇ?!」
悪いなと思いつつ縛られたままのサシャを残してエレンとジャンの方に駆け寄る。
「大丈夫……?あんまり騒ぐからだよ……。」
「め、女神………。」
ジャンが縋るように私に手を伸ばす。
どうやら思いっきりお腹を蹴られたか殴られたようだ。せっかくの食事を、ひたすら吐いてしまった。
「――――もう……リヴァイさん、やりすぎ……。」
なんとかエレンとジャンを介抱している間にテキパキと周りのみんながそこを片付け、ようやく会はお開きとなった。