第152章 可惜夜
「――――補給物資と予備の馬を別ルートから運ぶんですよね?シガンシナ区まで。」
「ああ。これまでの戦い方で――――、どうやら相手も相当な知略派らしいからな。ウドガルド城戦でも、馬を狙って退路を封じてからいたぶるように攻め入ったと聞いた。本隊だけの予備では心許ないから――――壁上から時差で本隊を追う。」
「――――抜かりないですね、うちの団長は。」
「まったくだな。だが――――、どうなるのかは本当に、戦ってみなきゃわかんねぇよな。――――ナナは行かないんだろ?」
「はい……ごめんなさい……。」
サッシュさんの問に、申し訳なく肩をすくめる。
サッシュさんはまたはは、と困ったように笑ってガシガシと私の頭を撫でた。
「謝るなよ、そう言う意味じゃねぇって。正直、お前がここに残ってくれるなら安心だし……やる気が出る。」
「やる気?」
「――――ウォール・マリアより内側にあいつらを入れねぇ、意地でも。だからお前は待ってろ。――――怪我して帰ったら、また手当を頼む。」
「……はい……!」
気遣いが嬉しくて、心の奥がぎゅっと苦しい。
サッシュさんはふ、と笑うと、ガシガシと撫でていた手を私の束ねた髪に移してサラリと梳いた。
「――――おい触り過ぎだ、サッシュ。」
「っ!!!へ、兵長…っ……!」
いきなり背後から凍てついた声が降って来て、サッシュさんの背筋がこれ以上ないぐらいにピン!と伸びた。
「分隊長昇格で調子に乗ったか?さっそく部下に手を出すつもりか?」
「いや、手とか出してません……!」
「許可なく女の髪に触れるとどうなるかの教訓は身になってないらしいな?」
「~~~~………。」
2人のやりとりを見て、私は――――笑った。