第152章 可惜夜
「――――馴れ馴れしくできなくなって寂しいです。分隊長。」
ふふ、と私が笑うと、サッシュさんはガシガシと私の頭を撫でた。
「気にすんなよ、今までどおりだ。――――きっとリンファが今ここにいても、『お前に務まるのかよ』とか悪態つくんだろうからな。――――そんな気心知れずに居られる奴がいてくれた方がいい。」
「………はい!」
サッシュさんの昇格は本当に本当に喜ばしいし嬉しい。
ただ……新しい分隊長が据えられることになったことで――――あの人の死を肯定してしまうことになるみたいで、それはとても――――辛い。
仲間を助けるために囮として巨人の群れの中に突っ込んで……1人で行ったと聞いた。
でも亡くなったところを誰も見ていない。
それに、亡骸だって見つかってない。
だから私はずっと心のどこかで、その内ひょっこりと現れて―――――、また私の側ですんすんと、鼻を鳴らしてはふっと笑うミケさんを諦められなかった。
でも今この雰囲気に水は差しちゃいけない。
私は一人心の内で、小さくミケさんに別れを告げた。
――――どうか、安らかに。
「―――耳も、随分良くなりましたね。」
「ああ、ありがとな。おかげさまで。はは、まさか弟に耳吹っ飛ばされるとは思わなかったけどよ。」
サッシュさんの右耳の外耳は大きく欠損していて、若干の聞きにくさはあるようだけれど、問題なく戦えるらしい。その傷を見るたび、兄弟は本当に殺すつもりで戦ったんだと悲しくなる。
けれど今はもう、同じ翼を背負っている。
「アーチさんの傷ももう大丈夫ですよ。なんたって別動隊に任命されるくらいですもんね?サッシュさんも分隊長就任でいきなり別動隊ってすごいです。」
「ああ、道中にアーチに寝首かかれなきゃいいがな。」
サッシュさんがはは、と笑う。そんな心配してないくせに。
だってアーチさんは……サッシュさんのことを “兄ちゃん” って呼ぶようになった。それにいつも、アーチさんはこっそりサッシュさんのことを目で追ってる。
―――――大好きなんだろうな、と、見てわかるほどだ。