第151章 無二
意気消沈のまま南方駐屯訓練兵団を後にする。
兵団を発つ直前に私は、キース教官に聞きたかったことを尋ねた。
「――――キース教官。」
「………なんだ。」
「――――私の母と、どこで面識が?」
その問に、キース教官はなぜ知っている、とでも言いたげに目を開いた。
「もしかして……私の母がショウ・リグレット元隊長の治療をした――――そこに、いらっしゃったのですか?」
「――――そうだ。あの壁外調査は……私が団長に就任して初めての調査だった。鼻を明かしてやるつもりで、ほとんど全兵力を注いで無謀な作戦を決行した……酷いものだった……。ショウ・リグレットの再起不能の大けがも―――――……全ては私の采配が愚かだった所以だ。」
まるでその時の母の目を通してその場を視ているかのように、その光景が脳裏に浮かぶ。
自分の信じた道を突き進み、多くの部下を死なせて――――、期待をかけていたであろう有能な兵士がその痛みに叫ぶ姿を、この人は―――――どんな思いで、どんな顔でそこにいたか。
そしてそれから団長として幾度も壁外調査の作戦を練る度に、どんなに死なせた仲間の死の影にとりつかれたのか。今の私は容易に想像できる。
それは―――――、大事な彼が、同じように重責を負って傷ついた翼を、私に預けてくれるようになったからだ。
キース教官は目を伏せた。
「彼女もまた、特別な人間だった。……そして、お前も。」
その言葉に今度は私が驚いて目を丸くした。
「――――恐縮です。が、私は特別な人間なんかじゃありません。」
「…………。」
「母も、特別なんかじゃない。私、聞いたんですその話。――――母は気丈に振る舞って処置をしたけれど本当は――――、震えてたんです。怖くて。」
「―――――……。」
「――――おいナナ、もう行こう……。」
僅かに苛立ったエレンが私の腕を軽く引こうとしたけれど、リヴァイ兵士長がエレンのその腕を制した。
そして私に目線をチラリと向けた。
その目線は、『続けろ』と言っていた。