第151章 無二
キース教官は約20年前、いち調査兵であった時期に、壁外調査の帰り道に――――壁の外で彷徨うグリシャ・イェーガーに出会った。
巨人に食われることなくこんなところに人がいること自体が歴史上なく、出征記録も戸籍もないまま、うやむやに――――その謎の男を受け入れたという。
不思議なその男は名前と医学のことだけを覚えていて、小さな病院に働き口を世話したのもキース教官だったと。馴染みの酒場に彼を連れて行き、そこで初めてカルラと彼は出会った。
未知の病が流行し、グリシャ・イェーガーはそこでこの壁内では例のない薬の組み合わせを指示し、その局面を乗り越えた。若き日のキース教官は、その時に感じたと言う。
『この男は、特別な人間だ』と。
「――――この壁の中に居場所など感じた事が無かった私は―――――、自分は特別な人間だと信じた。この男のように、自分も特別な人間になれると思った。調査兵団団長として偉業を成し遂げれば―――――誰も私を馬鹿にしない。みんなが私を認める。愚かにも―――――、そう信じて、数多の兵士を殺した。」
その言葉は、あまりに冷え切って淡々としていた。
でも私は――――、その時のキース教官の心情を思うと、ぎゅっと胸が苦しくなった。
そして、なんとなくわかった。3年前、キース教官が私にあの一言を言った理由が。
「――――特別な人間はいる。ただ、それが自分ではなかっただけのこと。それに気付くまでに――――私は多くの仲間を殺してしまった。」
その後、グリシャ・イェーガーとカルラの結婚を見届け、調査兵団団長になってからは一心不乱に巨人に挑んでは大敗を重ねて――――、失意のまま、エルヴィンに団長の座を譲った。