第150章 恵愛 ※
部屋の鍵を預かり、部屋に入る。
いつも王都招集で使うような宿ではなく、彼女の誕生日を祝うに相応しい貴族も御用達の宿だ。
依頼していた通りの準備がしてあって、ナナの手を引いてその伏せられた目線を上げるように促す。
「――――ナナ、見てごらん。」
「……うん……?」
ナナの目線の先には、テーブルに置かれた、フルーツをふんだんに使った小さなケーキとワインだ。
ナナはなぜがぎゅ、と顔をしかめて、大事そうに抱えていたヴェールを抱き締めた。
「………どうした?」
「………どう、していいか……わかんない………。」
「はは……喜んでくれたらいい。」
「――――女たらし。」
「……いやそこがひっかかかるのか?今。」
ナナが耳まで真っ赤にして俯いたまま悪態をつく。悪態をつく時は――――、想定以上の感情をどうしていいか分からない時。
彼女の癖だ。
「――――疲れただろう、食べるか?」
「…………。」
ナナは黙って首を振った。
「………まだ食欲がないのか?」
またナナは、黙って首を振った。
「――――食べるよ。」
「??じゃあ――――……。」
ナナの不思議な答えの真意を考えていると――――、ナナはまた自らヴェールを纏って、俺に両手を伸ばした。
物凄く背伸びをして、唇を合わせてくる。
「………っ……たべ、るよ……。エルヴィンを―――……たべた、後に……。」
唇を離したかと思えば、潤んだ瞳で頬を染めて一生懸命に俺を乞う言葉を口に出す。