第150章 恵愛 ※
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ナナは思ったよりも素直に俺の言葉を受け入れた。
もっと泣くか、また――――怒るかもしれないと思っていたが。
――――心のどこかで、彼女も自分が壁外に出るのはもう不可能だと思っていたのだろう。自分を鼓舞するために、病に打ち勝つ気力を持つために自分に言い聞かせながらここまでやってきたのだと思う。
――――相手の戦力は未知数だ。
高確率で激しい戦闘になる。
おそらく今のナナは行ったところで―――――、誰も見ていないところでただ死ぬだけだ。そんなことになるなら――――、たとえ俺を嫌いと、嘘つきと罵られようとも、約束をなかったことにする。
ついこの前まで、そんなことは微塵も考えなかった。
片時でも離れるくらいなら、ナナが死のうが苦しもうが、共に行くと心に決めていた。
―――――だが先日から俺の心の奥底に入り込む人類最強の横顔。それに加えて、一通の手紙が俺を更に揺さぶった。
――――想像はしていたつもりだったが、いざ現実となると………話は変わってくる。
「――――ナナ。」
「…………?」
「じき日が暮れるが………帰りたいか?」
ナナに問うと、ナナは思ったとおり、小さく首を振った。
「――――まだ、一緒にいたい……。」
「――――俺もだ。君をこのまま、攫っていいか。」
「――――うん………。」
ナナを抱いてまた馬を駆り、日が沈みかける頃には、王都の宿に着いた。