第150章 恵愛 ※
「――――なぜ泣く?」
「――――わかん、な……い……。」
「――――嫌だったか?」
「――――ちがっ……、うれ、しい……。うれしい……ありがとう………。」
「――――泣き虫だな、君は。」
エルヴィンはまるで永久の誓いを立てるその時のように、私の顔にかかるヴェールを手でそっと避けた。
涙でぼやけた視界に、ただその人だけが映る。
共に生きると決めた人。
私を愛してくれて、私が愛している人。
「………自分勝手な俺を赦してくれ。」
「………?」
エルヴィンは私の左手を取ると、その薬指に口付けをした。
「誓うよ。俺は永遠に君のものだ。」
「――――私――――……」
エルヴィンはまるで私の言葉の続きを遮るように唇を塞ぐ。――――エルヴィンのこの予防線の張り方は………何かを守ると心に決めている時だ。
この唇が離れた時、彼は私が聞きたくない言葉を発するんだろうと想像に容易かった。
体温を分け合うような口付けを交わして――――、エルヴィンは言った。
「――――すまないナナ。ひとつ約束を破らせてくれ。」
「――――………。」
「――――君を、ウォール・マリア奪還作戦には連れて行かない。」
――――やっぱりそうだ。
知っていた。
エルヴィンが、何かを守るために何かを捨てることが出来る人だって。
――――私の命を守るために、『ウォール・マリア奪還のその時はどんな状況であっても連れて行く』という私との約束を捨てた。
「――――必ず俺が持ち帰る。エレンの実家の地下室に眠る秘密を。だから君は――――待っててくれ。俺達の帰りを。」
分かってた。
本当は、足手まといになるだけだって。
でも、その瞬間に自分は立ち会うんだって、必ず成し遂げなきゃいけないんだって言い聞かせなきゃ、病にすら負けてしまいそうだったから。
「――――……うん、わかった………。」
「――――ありがとう、ナナ。」