第150章 恵愛 ※
「――――誕生日おめでとう、ナナ。」
「――――あ。」
そうだ。また忘れていたけど………今日は、私の誕生日だ。
肩にかかるヴェールを驚きながら手を滑らせてその細工に目を凝らしつつ、耳の上に刺されたコームを指で触って確かめる。
「えっ……待って、でも……。」
「ん?」
「………なんで?」
「なんで?とは?」
私の問にエルヴィンが優しく笑みを返す。
「だって、こんな高価な……あの、しかも二つも……。」
「君と恋人関係になってからの君の誕生日は離団していたりなんだかんだで、ずっとちゃんと祝えなかったからな。それに――――そのヴェールは去年の誕生日に合わせて作らせていたものだ。誕生日には仕上がっていたんだが―――――渡せなかった。」
「――――あ………。」
エルヴィンが自分の過去やお父様・お母様の事を話してくれた時……妻にしたいと、諦められないと言っていた時だ……。
――――私が、それを拒否したから。
申し訳ない、と少し目を伏せた。伏せた目線に美しいレースが目に入る。
「―――去年は俺の願望を贈り物にしようとしてしまったからな。今年は反省したんだ。――――お姫様に相応しい贈り物にした。――――ティアラ、良く似合っている。」
「――――……去年渡せなかったヴェールを、今日渡した理由はなに……?」
「――――言っただろう?俺の夢を叶える日だと。」
「――――………。」
エルヴィンははは、と笑った。
「――――誓いの指輪で君を縛ることはしない。けれど……こうして純白のヴェールに包まれて俺を見上げる君を、一度見てみたかった。」
「…………。」
「――――想像通り、世界で一番綺麗だ。」
エルヴィンはこの上なく優しい目をして、ヴェールの中にそっと手を差しこんで、私の頬にいつものように手を寄せる。
なぜか、私はぼろぼろと泣いていた。
だめ、せっかくのレースが濡れてしまう。
でも、止められなくて。