第150章 恵愛 ※
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晴れ晴れした蒼天の下、初春の訪れに蕾を綻ばせ始めた色とりどりの花を眺めながら郊外の緩やかな丘陵の木陰で、私の膝に頭を預けてエルヴィンが幸せそうに微睡む。
私はそのさらさらと輝く金髪を撫でながら、彼を見下ろす。
私の髪が彼の頬に落ちて肌をかすめると、くすぐったいのか、その空と同じ蒼い瞳をゆっくりと開いて――――、私の髪に触れる。
風に乗って花々の香りが漂ってきて、―――――まるで怖い事も、辛い事もなにも存在しない世界のように見える。
エルヴィンは遊ばせていた私の髪を放すと空に向かってその手を伸ばして、呟いた。
「――――海の向こうの地では、この空を “飛行船” が飛んでいるのかな。」
「――――そうかもしれないね。……もっともっとスゴイものがあるかも。」
「スゴイもの?」
「………例えば……自動で地を走る、一度に人をたくさん運べる乗り物とか………例えば、そうだなぁ……遠くに離れていても、本当に“声”を届けられるような装置とか?」
私がふふ、と笑うと、エルヴィンは興味深そうに言った。
「――――それはいいな。だが、少し妬ける。」
「妬ける?」
「――――物理的距離を越えて、君の声が聞こえる装置ということだろう?」
「うん。」
「――――誰でも聞こえるんだろう?」
「うん。」
「――――離れていても君の声が聞こえるのは、俺の特権なのに。」
エルヴィンが拗ねるように言うから、おかしくて。思わず吹き出してしまった。