第150章 恵愛 ※
ウォール・マリアを奪還するということは、シガンシナ区のエレンの実家の地下室に行ける、ということだ。
おそらく外の世界から来たグリシャ・イェーガーが残した秘密は、きっと父さんの仮説を証明するものに違いない。
―――――ようやくここまで来た。
父の仮説を証明する何かをここに持ち帰れた時――――、俺はこの心臓に纏わりつく罪の意識から、ようやく脱することができる。
そうすれば。
ナナと共に、今度こそ本当の自分達の“夢”を描く。
海の先の異文化を、見て知って―――――、異国の地でその言語を介して新たな人類と心を通わせ、ナナが笑う。
―――――どれほど満ち足りた生き方だろうか。
ふっと笑うと、ナナは静かに寄り添った。
「――――母さん。今度来た時は、父さんの思い出話をしよう。たくさんたくさん。」
母はとても嬉しそうに笑った。
それを見て――――、ナナもまた、笑った。
恒例行事のように、母を訪ねたあとは父にも会いに行く。
そこに眠る父に向かって祈りながら――――、民衆を欺き、頑なに壁の中の偽りの平和を保つために幾人もの人間を闇に葬った旧体制から実権を奪ったことを報告した。
――――父は、どんな顔をしているだろう。『よくやったな。』と言ってくれるのか、それとも――――自分のせいで俺が多くの血を流す革命を選択するに至ったことに、悲しい顔をしているのか。
――――きっと、その両方だ。
ふと隣を見ると、ナナが同じように目を閉じて父の墓標に向かっている。
「――――父さん、もし聞き届けてくれるなら………まだ、彼女を連れて行かないでくれ。」
俺が小さく零した言葉に、ナナの目がゆっくり開いて――――俺を見上げて、悲しさと慈愛に満ちた顔で小さく笑んだ。