第150章 恵愛 ※
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――――ずっと成しえなかったそれを、叶えようと思った。
ナナとの約束の日は、寒さもありながらも春を思わせるような陽射しが優しく、青い空と爽やかな風が心地よい朝だった。ナナを前に跨らせて、馬に2人で乗る。
「片手じゃ手綱引きづらいでしょ?私が手綱引くから、エルヴィンは捕まってていいよ?」
「片手でも十分だ。それに君にしがみつくなんて、恰好がつかないじゃないか。それにウォール・マリア奪還作戦前に一人で馬にも乗れない団長はもう失格だろう?」
「――――ほんとだ。」
「だから大丈夫。任せてくれ。」
「――――うん。」
馬を駆って―――――、母の元を訪れた。
あの日以来、母は俺を“エルヴィン”と呼ぶ。乱れることもなく、父を探して彷徨うこともなく。
――――ナナがいなかったら、俺は……もうここには来なくなっていただろう。全て自分のせいだとして―――、母と目を合わす事すらせずに、ただ逃げていたかもしれない。
今日もナナは、まるで自分の家族のように母と世間話をしながら身の回りの世話を焼く。母は―――――ナナが来るととても喜ぶ。
「――――母さん。いよいよ俺はウォール・マリア奪還作戦に発つ。」
「――――そう………危険、なの………?」
「………そうだな……少しはね。」
「無事で、いてね……?」
「ああ………。」
母がウォール・マリアを奪還することの意味を理解しているのかは、その表情からはわからなかった。けれど、戦いに発つ息子の身を案じてくれる。
こんな普通の母と子の会話が、なぜかとても新鮮で温かい。