第150章 恵愛 ※
「――――ナナ。」
「うん?」
エルヴィンはベッドから降りると、私の目の前の床に膝をついた。
「……どうしたの?」
「――――手を。」
「??」
言われるがまま、エルヴィンが出した左手に自分の右手をそっと重ねた。するとエルヴィンは私の手の甲にキスを落とすと、ねだるようにその蒼を向けて言葉を繋げた。
「―――――明後日の調整日を、俺にくれないか。」
「――――えっ?」
「―――――君と2人で誰にも邪魔をされずに、一日ゆっくりと過ごしたい。駄目かな?」
「えっ、えっ……嬉しい、けど……だって……忙しいでしょう……?」
「忙しいから、君との時間が欲しいんだ。」
とてもシンプルなその言葉に、眉を下げて笑う。どうしても、顔がにやけてしまう。
「嬉しいです………。」
「――――なぜ敬語だ。」
エルヴィンは優しくふふ、と笑う。
「どこに行くの?あ、あの別にどこでもいいんだけど……。や、あのどこでもいいっていうのは投げやりにじゃなくて、エルヴィンとならどこでも――――……。」
あたふたとしながら不器用に言葉を足しつつ明後日のことを問うと、エルヴィンは嬉しそうに、少し悪戯な目を向けた。
「――――俺の夢を、叶えたくて。君のためじゃないんだ。自分勝手で済まないが。」
「夢……?」
外の世界の証明以外の夢を、エルヴィンから聞いたことがなかったから、私は驚いた。
でも嬉しい。
またエルヴィンのことを一つ知れるから。