第150章 恵愛 ※
それは思いもしない、エルヴィンからの申し出だった。
ウォール・マリア奪還作戦が1週間後に迫ったある日の夜。
いつものように、月を見上げながら歌を歌い髪を乾かす私を背中からふわりと高い体温の大きな身体が覆った。
「――――ご機嫌だな。」
「そう見える?」
「見える。ここ数日、体調も良さそうじゃないか。」
「――――そんなにわかる?そうなの。なんだろう。やっぱり何かあるのかなぁ、体力とか……食事内容……?まだわからないけど………。」
2週間前の定期検査くらいまでは体調が思わしくなく、案の定血液を調べても若干の進行が見られて――――良くない、と言われていた。
けれどそれは私の胸に秘めたままみんなのところに戻って来た。医者が精神論に走り過ぎるのはどうかと思うけれど、やっぱり私はここに居るほうが心も体も元気でいられる気がする。
「――――薬、毎日飲んでるのか?これは病の進行を抑えるため?」
エルヴィンが目線をやったベッドのサイドテーブルには、毎日欠かさず飲んでいるロイから処方してもらった、避妊のための薬。
――――体に合っているのか、ロイが“体への負担が少ない”と言ったように、特に薬による気になる悪影響などもない。眠る前に飲むと決めている。
「ううん。これは例の――――……、有事の時だけ飲むんじゃなく、継続して飲むものの方が体に負担にならないから、ロイが変えてくれたの。」
「………そうか。」
――――エルヴィンは私を抱かない。
だから……正直、飲まなくても……良いんだけど……。ずっと飲み続けていることで、はしたないエロ女だとか思われたらどうしよう、と僅かに負の想像をしてしまって目線を薬から外した。いや、だってもともとはビクターさんの件や……エルヴィンには言ってないけど、ダミアンさんの件もあったから―――――常に備えているという口実で説明できるかな、と狡い言い訳を考える。