第149章 縁
「――――ガキかよ。」
「心配ありがとう。大丈夫。―――――あ。」
「ん?」
エレンとやりとりしていると、知っている顔が私の方へ近付いて来る。
――――誘拐目的以外で彼が私の方に自らやって来るなんて、新鮮だな、と思うと少し笑えて来る。
「――――アーチさん。」
「………どうも。」
「アーチ?あぁ、サッシュさんの弟って……。」
「……………。」
「……………。」
「……………。」
『どうも』って言うくらいだから、何か言葉を続けるのかと思いきやなにも言わずただ私を見ている。
えっと………なんだろう、どうしたらいいんだろう……?
ここに、座りたいとかかな……?
ちょうど席も立つし……と、ぎくしゃくしながら私は席を立って食器を返却口まで下げる。
………アーチさんは、ずっとついて来る。
「…………?」
食器を返却して彼の方を振り向いて、要件を問うてみる。
「あの………なにか?」
「――――別に。」
「そう、ですか……?」
私はぺこりと頭を下げて、食堂を去ろうとした。
けれど、やっぱりアーチさんはついて来る。
食堂を出てから廊下で、パッと振り向くと――――、アーチさんはぴた、と歩を止める。
私は思わず、笑ってしまった。
「………もう、なんなんですか。」
「………えっと………。」
「ここまで付け回して、『別に』じゃないですよ。何かあるんでしょう?」
問いかけても、目を伏せて言葉に迷っているようだ。
これまでの彼の過ごして来た日々と、彼の想いと、この行動を組み合わせて考えてみる。
―――――ああそうか。分かった気がする。
「―――――リンファが見ていた景色を、見てるの?」
「…………!」
アーチさんがぴくっと反応した。
知りたいんだ、愛した彼女が何を見て、何を感じて毎日を生きて来たのか。