第149章 縁
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いつになく食堂が賑やかだ。
調査兵団は新たに編入希望者も募り、このウォール・マリア奪還の現実味が増して来た追い風もあって、マルロさんやフロックさんを始めとした多くの兵士が編入してきた。
雷槍を実装してみてのその威力にか、夜間順路の順調な開拓に関してか……エレンの硬質化実験も大詰めで順調だからか……編入した兵士の多くが、士気を率先して上げているといってもいいほどの活気だ。
――――けれど、104期の面々はそれをどこか冷めた目で見ている。
――――無理もない。
編入してきた彼らの中には、まだ巨人に出会ったことすらない兵士もいる。……まして、ライナーやベルトルトのような特殊な巨人なんて、彼らの桁外れの力は想像しても追いつかないくらいだ。
耳から入ってくる『女型を捕らえた』『ウォール・マリアを塞ぐことができるエレンがいる』……それだけ聞けば、ウォール・マリアの奪還は容易いと、思えるのかもしれない。
「――――ナナさん!」
いつもなら真っ先にエレンが私に声をかけてくるのに、食堂で私に声をかけて駆け寄ってくれたのはサシャだった。
「サシャ。ふふ、今日もたくさん頬張って。元気そうで嬉しい。」
「はい!ナナさんは……少しお疲れですか?」
「……そう見える?」
サシャは食べかけのパンの少しを私に差し出した。
「食べたら治りますよ!どうぞ?」
その様子を見たコニーやジャンが目を丸くしている。
「サシャが……食い物を譲ってる……?!」
「おいおいおいどういうことだよ、明日巨人でも降ってくるんじゃねぇか……?!」
「ちょっと失礼ですね!!私だって慈悲深い心くらいありますよ……!」
サシャがムッとして彼らの方を振り返る。
――――ああいいな。この子達はずっとこうして、かけがえのない存在をその目に映し合って欲しい。
――――誰も、死んで欲しくない。
私はサシャがせっかく分けてくれようとしているパンを手にとった。