第148章 其々 ※
そう言えばリヴァイは………ナナを看病した時も、執務室でナナを組み敷いたその時も――――こんな苦悶の中で湧き上がる欲望を押さえつけながら耐えていたのだろうか。少なからずナナはその熱を含んだ目であいつを見上げたはずだ。
……敵ながらあっぱれとはこのことだ。
あくまで自分の欲よりもナナの心情を守る。
ナナが踏み外したくない一線だけは、どれだけ感情に突き動かされようとも最後には自分を律する。
―――――俺にはできない。
また、無いはずの左腕がズキ、と痛む。
まるで問いかけているようだ。調査兵団団長として育ててあげてきた私自身が、心の中で。
“――――お前はナナと共に死ぬことこそが愛だと言うが―――――、あいつはナナを守り抜くつもりだ。共に生きるために、足掻くことができるだろう。――――果たして、どちらが本当に彼女を愛していると言えるのだろうな?”
――――答えなど持ち合わせていない。
それにあいつが特別な存在であることは今に始まったことじゃない。だから俺は俺の信じる通りに行動する。
そう腹を括ろうと目を閉じてみても――――、ただチラつくのは、あの人類最強の横顔だ。
いつでもあいつは俺の中に、強烈な存在感を持ってそこにいる。
そして変わらず―――――
ナナの、中にも。
――――――例えば俺とリヴァイが共に瀕死で……どちらか一人しか救えない、選べないとしたら………君はどんな選択をするのだろうか。
―――――――怖くてとても問えそうにない。
ならばやはり、連れて行くしかない。
地獄まで。
屍の山を作りながら……
優しい君が仲間の死に辛く引き裂かれても、
その身体が病に蝕まれても。
夢を見るのも、地獄を見るのも共に。
俺の愛し方を怖いと思うか?
―――――だとしたらそれは全て、
愛しすぎる君のせいだ。
俺は自身の中に現れた、物分かりがよく正しくナナを愛そうとする調査兵団団長の自分に向かって『余計なお世話だ』と悪態をついて、それを掻き消した。