第148章 其々 ※
「――――小さな手も可愛い。俺のナナ。」
「………………。」
「髪を拭かれるの、好きなのか?」
「……うん、好き。いつも……小さなロイの髪を、私は拭いてあげるばかりだったから……。」
ハルが忙しくない時はハルに甘えて、髪を拭いてもらったこともいい思い出。
けれど…………何も言わなくても、当たり前のように私を甘やかしてくれるこの大きな手が、やっぱり私は大好きだ。
「――――俺は母さんが拭いてくれてた。一人っ子だったからな。誰かの髪を拭いたのは、初めての経験だ。」
「そうなの?」
「そうだよ。」
「うふふ。」
「なんだ?」
「――――嬉しい。」
「こんなことでか?」
エルヴィンは穏やかな優しい目で私を見つめてくれるから、私も思わずその手を伸ばす。エルヴィンの頬を両手で捕まえる。
――――こんな何でもない触れ合いが、戯れが幸せで………愛おしくて、胸がいっぱいだ。
「――――幸せだねぇ?」
ふふふ、と堪えきれずに笑うと、エルヴィンは目を細めてから、少しの間、噛みしめるように目を閉じた。
「――――ああ。まったくだ。」
左手しかないはずなのに、力強く背中からぐい、と身体を持ち上げられたと思ったら、唇が触れる。
乾ききっていない、拭いていた途中の髪の一房が唇の端にかかる。そんなことには構いもせずに、まるで言葉でも交わすかのようにキスを交わした。
しばらくして名残惜しく唇を離すと、エルヴィンは私の頭を撫でて言った。