第147章 同憂
また扉が鳴る。
コンコンと、今度は優しく。これはナナだ。
「ナナか?どうぞ。」
「………なんでわかるんですか?」
カチャ、と少し開いた扉の隙間から、ナナが不思議そうに顔を出した。
「――――音が違う、それにリズムも。」
「ふふ、私が尋ねてくるのが待ち遠しくて、ノックの音まで覚えちゃったんですか?」
「そうだよ。」
「!!」
ナナの冗談をあっさり肯定すると、その大きな瞳をまた開いてから、困ったように眉を顰めて下げる。
「もう、そんなことばっかり………。」
「事実だ。……それにしても今日は調子が良さそうだな。」
「はい、昨日よく眠れたからでしょうか。」
「なんなら毎晩お相手しようか。」
「……………。」
ふふ、と笑って冗談を言ったつもりだが。いつものようにナナが『結構です』とぴしゃりと断らない。不思議に思って資料からナナの顔へと視線をずらすと、顔を赤くして俯いている。
「………どうした?したいのか?」
「やっ、あの……しなくてもいい、けど………。」
「………ん?」
ナナは遠慮がちに、胸の前で指をくるくると遊ばせながら可愛い我儘を言う。
「………一緒に眠っても、いい………?」
――――そんな可愛いことを言わなければ一緒に眠るだけで済んだものを。残念だが、もうその選択肢は俺の中でなくなったぞ、と沸き上がる欲を上手く抑えつつ、大人の余裕を纏って笑顔で答える。
「――――大歓迎だ。君はいい匂いがして、柔らかくて……温かいからな。」
「………人を抱き枕みたいに……。」
「いつぞやは俺が抱き枕になってあげただろう?多忙な団長を癒すのも補佐官の大切な勤めだ。せいぜい励んでくれ。」
「~~~~~~………。」
ナナが困った顔を赤く染める。
ナナと出会って6年。
団長補佐について5年経つが――――いつまで経ってもくるくる表情を変えて俺を魅了する。
毎日毎日、新しい君を見つけられる。
そんな日々が、たまらなく幸せだ。