第147章 同憂
「――――っ……とにかく、姉さんを病院に……!」
「それは阻止する。」
「なんで!!!」
「ナナがそう望むからだ。俺はナナの想いを尊重する。」
「――――わかった、もう、頼まない……!」
ロイはひどく顔を歪めて、まるで『裏切者』とでも罵りたそうな表情で、席をがた、と立って扉の方へと歩を進めた。これ以上話すことなど、何も無いと言うことか。
「――――ロイ。」
―――俺を兄と慕う幼い彼に、一つだけどうしても伝えておかないといけない。
――――彼がまた、過ちを犯す前に。
「――――なに……。」
「ナナを愛しているなら、理解する努力をしてみるといい。君には君の価値観と考え方があって、ナナにはナナの価値観と考え方がある。無理矢理自分の思い通りに事を運ぼうとするな。そんなことを繰り返していたら――――、いつかまた、君はナナの笑顔を失うぞ。」
ロイは硬直した。
まるで世にも恐ろしい事実でも突きつけられたかのように。
………過去にナナとロイの間に何かあったことは、今のロイの表情が物語っている。何があったのかは知らないが、ロイにとってそれが二度と繰り返したくないものなのだとしたら、これは大きな牽制になる。
そして『思い通りに事を運ぼうとしていること』に、俺は気付いていると牽制をかけた。
「――――っ……。」
ロイはなにも言わず、苦しそうな表情で部屋を出て行った。
「――――悪いな、ロイ……だが……、君はまだ変われる。もっとちゃんと人と関わって―――――向き合えるようになる。」
可愛い義弟に、そんな意図は伝わっていないかもしれない。
けれどナナが愛する弟だ。
俺だって大事に想ってる。
さてこれで、少し彼の行動が――――変わればいいが。