第146章 食欲 ※
「――――そういえば……楽しみにしてたんだった……。」
私がぽつりと言葉を零すと、エルヴィンは不思議そうな目で私を見た。
「――――片腕で、どうやって私を鳴かせてくれるのか。」
「………そうしたいのはやまやまだが。」
「気にしてるんでしょう?私の身体のこと。」
「当たり前じゃないか……。毎日怯えてる。君に何かあったら、と。」
「――――出血するほどひどいこと、する?」
「するわけないだろう。」
「じゃあむしろ私は満たされて元気になるかもしれない。」
「――――………。」
エルヴィンを見下ろして身を屈めて―――、その唇を食むようにキスをする。
胸ポケットから錠剤を取り出すその瞬間、胸ポケットの中で一瞬指を迷わせた。小さな決意とともにそれをつまみあげる。
この薬を目にした時、いつもエルヴィンは少しの動揺を見せる。でも今日はほんの少し表情が違う気がした。そう思ったのは気のせいではなく、エルヴィンは私の手からその錠剤を奪うと、自らの口に放り込んだ。
「――――あ…っ……。」
体を起こしたかと思うと、かぶりつくように唇を塞がれて――――、喉の奥に、エルヴィンの唾液と共にその薬を流し込まれる。
「――――ん、ふ……ぅ……っ……!」
流し込んでもなお満足する様子はなく、あっという間にベッドに組み敷かれてしまう。僅かに唇を離したその間に、目の前にはエルヴィンの切羽詰まった表情と――――、荒い息遣いの合間に、唇が触れるような距離で言葉を交わす。
「ナナ……、この薬は、闘病中でも……飲んで、いいんだな……?」
「うん……問題ない……。」
「なら毎回飲ませよう……そして受け止めろ。俺を……全て……!」
「………いいよ……。あなたがそう、望むなら。」
――――怖がってる。
エルヴィンもまたひどく、私がいなくなるかもしれない未来を。
抗うように欲をぶつける姿は大人げなくて、かっこ悪くて―――――
とてもとても―――――――
愛おしい。