第146章 食欲 ※
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「――――ナナ、明日にでもロイに面会ができそうだ。」
「本当ですか?」
診察を終えてボルツマンさんのところから兵団本部に戻ると、もう日が暮れていた。エルヴィン団長から声をかけてもらったその内容に、ぱぁっと明るい気持ちになる。
地下牢に閉じ込められていたから………随分と心も疲れてしまっているかもしれない。早く会いたい、ロイに。
――――そして、叶うなら、ぎゅっと抱きしめたい。
「――――ヒストリア女王もロイの疫病への貢献は大きく認めていらっしゃる。………きっとロイを悪いようにはしないで済むはずだ。」
「――――はい……!」
もう一つ気になっているのは――――…エルヴィンが多忙を極めていて、またあまり休まない日々が続いていることだ。
仕方ないのは分かっている。
けれど、自分の体を健やかに保つのも、調査兵団団長の大きな使命だと思う。だって、エルヴィン団長はこの組織の象徴だから。
珍しくエルヴィンがふ、と息を吐いて疲れたような素振りを見せた。
「――――肩、揉みましょうか……?それとも、以前のようなマッサージもできますよ……?」
「ん?」
「――――ひどく疲れているように見えます………。」
「――――頼もうかな。身体は大丈夫か?」
「ふふ、それくらい大丈夫。」
私は微笑むと、エルヴィンも柔らかく笑う。
エルヴィンの手を引いてベッドに誘う。その身体をうつ伏せに横たえて、肩周りから腰、腿や脚もくまなくほぐしていく。
血行が良くなると眠りも深くなる。
少しの睡眠でもしっかり休んで欲しい。
心を込めて、一生懸命に施術する。
心地よいのか、ずっと静かに目を閉じていたエルヴィンの瞼が、しばらくしてからゆっくりと開いて―――――体を返して仰向けになって私を見上げた。
「――――痛かった?眠れない?」
「――――ナナ。」
私を呼ぶその声が、何も言わずとも全てを含んでいた。
触れたい
抱きたい
交わりたい
………エルヴィンのことだ、私の身体を気にして、言わないでいる。