第145章 慈愛
「――――リヴァイさん……。」
「――――あ?」
「ありがとうございます。側にいさせてくれて。」
「……なんだナナ、聞こえねぇ。」
肩が触れるほど近くにいても、掻き消されるほどの歓声の中、リヴァイさんは眉を寄せてかがみ、私の方に顔を寄せる。
誰も私たちのことを見ていない。
――――だから一瞬、リヴァイさんとナナに戻らせて。
私はかがんでくれたリヴァイさんの首に両手を伸ばし、ぎゅっと引き寄せて――――、耳元に唇を寄せて、それを伝えた。
「おい、なんだ………。」
「リヴァイさんの優しさは、わかりにくい……。」
その言葉を伝えた瞬間、リヴァイさんは私の目を見た。
至近距離で視線が交差する。
「――――だいすき――――………。」
その一言は、聞こえたかどうかはわからないままリヴァイさんを引き寄せていた腕を放すと、リヴァイさんは少し俯いた。
垂れる艶やかな黒髪が彼の表情を遮るけれど、彼は顔を上げてくれて―――――
子猫でも撫でるように優しく大切そうに……私の頭を撫でたその手を滑らせ、さらりと頬を撫でていく。
そして何より優しい顔で、笑った。
「――――知ってる。」
――――病を患った意味が、わかった気がした。
心から愛する2人の愛情をこの身に受けているから………私には過ぎる幸せを貰っているから。
きっとこの病は―――――バランスをとるために必要な試練なんだ。
もちろん試練は病だけじゃないけれど……それでも超えていく、この愛しい人たちの側で。