第145章 慈愛
その日の午後、民衆の大歓声の中戴冠式は行われた。
ヒストリアが、この世界の女王として即位した瞬間だった。
女王の元に下る各兵団の象徴として、各兵団団長は戴冠式にももちろん出席している。私は遠目から、ヒストリア女王に傅く兵団の象徴を見守った。
すると、忙しいはずのその人が気付けば私の側にいる。
「――――出歩いて大丈夫なのか。体調は。」
「――――リヴァイ兵士長。大丈夫です。なんだかとても、元気が出て。――――この瞬間を、みなさんと一緒に見られて良かった………。小さく、でも確実に、この世界が変わっていく……。」
「――――そうだな。」
ヒストリアが心臓に手を当てて、女王が心臓を捧げる敬礼を民衆に向けて行う。それは民衆のために命を捧げるという決意を表していて、実にヒストリアらしい……そして彼女はそれを体現するだろう。
“民衆を生かしている王”ではなく、“民衆と共に生きる女王”として、多くの尊敬と支持を集めるに違いない。
沸き上がる歓声の中、それを見つめる。
この大歓声の中だ。
きっと隣の彼以外には聞こえない。
――――――だから、言ってもいいかな。