第145章 慈愛
「――――リンファの死に意味を持たせるために、精一杯、足掻いて足掻いて足掻いて、生きていくんです。それが――――……リンファへの、私の恩返しです。」
「――――戯言だ……。」
「そうですね。」
アーチさんが俯いて、きらりと涙の粒が光った気がした。
私は、サッシュさんとはまるで違うふわふわした緩く巻いた彼の髪を撫でた。振り払われると思ったけれど、意外にもアーチさんはそれを受け入れてくれた。
「――――私は嬉しいです。アーチさんが生きて、ここにいてくれることが。」
「…………。」
「これから宜しくお願いします。」
腿の傷を処置して、包帯を巻きなおす。
「――――兄ちゃんも………。」
「………はい?」
驚いた。アーチさんの口から“兄ちゃん”という言葉が出てきたことが意外で。
「――――兄ちゃんも耳、俺が撃ったから……怪我、してるんです……。」
俯いたままだけど、小さな声で言ってくれたそれは、間違いなく私に『診てあげてくれ』と言っていた。私はとても嬉しくて、心からの笑顔で頷いた。
「――――はい、診てきます。ありがとう、アーチさん。」
「……ありがとう………。」
処置を終えてアーチさんのベッドを離れる。
マルロさんとフロックさんも、おそらく話は聞こえていたのだろう。なんとなく気まずそうな顔をしつつ、私に頭を下げた。――――そうだ、一つ……別に困ることもないのだけれど、ちゃんと訂正をしておこう。
「――――あぁそうだマルロさん。」
「は、はいっ!」
「リヴァイ兵士長は私が敬愛するとともに、とてもとても愛している人なのですが――――、恋人ではありません。私は――――、エルヴィン団長にこの身体も心も命も、全て捧げているので。」
「えっ………。」
「では。お邪魔しました。」
――――そう言えばアーチさんに連れ去られた時、アーチさんは私のことを“ふしだらな女”だと嫌悪したっけ。
――――違いない。
だけど誰になんと思われようともいい。
2人へのこの想いにだけは、嘘は、つかない。