第145章 慈愛
「――――リンファ、は………。」
「………はい?」
「――――あなたと……調査兵団に居る時、どんな、様子でしたか……。」
その問が、嬉しかった。
「――――そうですね。――――キラキラ、していました。」
「――――………。」
「努力家で、強くて、美しくて、賢くて――――、不器用で。――――大切に想っている兄弟のことを、よく、話してくれていました。」
目を見開いて一点を見つめるアーチさんの顔は、兵士じゃなく少年のそれだった。
憧れ続けた彼女を想う1人の少年は………目に、涙を浮かべていた。
私の大事なサッシュさんと似たその瞳に涙が滲むのは、私の心を締めつける。
それに――――、リンファを死なせたのは、私。
その事実が、どうしようもなく苦しくなる。
――――でも、謝らない。
私を生かしたのはリンファの意志だったから。
リンファの意志を受け取ったから、謝らない。
ありがとうって、言うんだ。
「――――リンファは壁外調査で私を守って――――死んだんです。」
アーチさんにとって残酷な事を告げる。隠したくはなかった。
「―――あんたがいなきゃ、リンファは死なずに済んだのか……?」
「―――かもしれません。」
「親友が自分のせいで死んだのに生き続けることが、辛いとは……悪いとは思わないのか。」
その言葉は鋭利だけれど、私を責めたいわけではないというのは、彼の表情でわかった。
ただ疑問なんだろう。
それは多分、彼自身が答えを探しているってことだと思う。
――――中央憲兵にいた時に手にかけた数々の命に、苛まれているのだろうか。
それとも――――……幼い頃救えなかったリンファへの想いか。
「―――辛いですが……だから私が死んだって、なんの解決にもならないでしょう。」
自分の体に言い聞かせるように、暗示をかけるように胸に手を当ててそれを口に出す。