第145章 慈愛
「――――深い……骨も損傷してると思います。少し化膿しかけているので、消毒しますね。――――ちょっと、染みるかもしれませんが我慢してください。」
アーチさんは終始黙って、俯いたままだった。
「――――……ケニーさんは、残念でしたね………。」
「…………!!」
「私はもう一度会って――――、一度とことん、話してみたかった。」
「…………。」
「何を想って、何を信じて………生きて来たのか………。」
「………怖い思いをさせられたはずですけど。」
アーチさんがやっと口を開いてくれた。
「ふふ、そうですね。アーチさんが庇ってくれたから良かったけど………、確かに怖かったです。」
「…………。」
「――――でも、人を殺していても………非情なことができても………、怖い人でも………、だからその人の全てが受け入れられないわけじゃないです。話して、知って、理解したら――――、見方は変わる。」
――――そう、だって……人を殺していても、非情なことができても、怖い人でも。
――――狂おしいほど愛してしまうことだってある。
綺麗な人間なんて、いないから。
みんな何かを抱えてて、何かの罪を背負っていて、信じるものと愛するものを守るために、必死に生きてるから。
「………クズはどこまで行ってもクズですよ。」
「――――そんなことないです。」
「――――少なくとも俺は、そうは思わない。」
「――――それもまた、価値観ですね。ひとつ、知れました。アーチさんの考え方と価値観を。」
その目を見上げて笑むと、ほんの少し驚いた顔をして――――、また目を伏せてしまった。
「………あんたと話してると、調子が狂う。」
「――――それは、私にとっては褒め言葉です。」
ふふ、と笑いながら処置をする。
沈黙が続いたけれど、決して嫌な空気じゃない。ほんの僅かに、心を開きかけてくれている気がした。
そしてアーチさんから、言葉をかけてくれた。