第145章 慈愛
「―――――うるさい。」
奥の二段ベッドの下段で――――、カーテンが引かれていて顔も見えないけれど、声でわかる。
――――アーチさんだ。
「……アーチ!!お前……団長補佐……上官だぞ?!」
マルロさんが怒りを帯びた声で牽制するも、アーチさんは相変わらずだ。
「――――だからなんだ。傷に響く。」
「お前……っ……!」
「マルロさん、大丈夫です。私がいけなかったんです。――――アーチさん?」
カーテン越しにアーチさんに話しかける。少しの沈黙のあと、アーチさんは答えてくれた。
「………なんですか。」
「――――怪我してると聞きました。往診したくて来たんです。……そっちに行ってもいいですか?」
「――――結構です。」
「………でも、深い傷は経過を見て処置しないと……。」
「――――いらない。大丈夫です。」
「お兄さんと同じ意地の張り方しないでくださいよ。」
「…………!」
思わずふっと笑ってしまった。――――そうだ、このやりとりは昔、サッシュさんともしたな。
「大丈夫かどうかは医師である私が判断するんです。診せなさい。」
「…………。」
私が上官としての圧を出して言ったからか、少しの間を持って、カーテンが開けられた。
「――――良かった。顔色は悪くないですね。」
ふ、と笑ってアーチさんの側へ行く。聞いたとおり、腿を負傷していて包帯が撒かれている。頬にも、切り傷がある。
「――――診ますね。」
頬の傷に手を寄せて確認する。さすが若いだけあって、もう傷も塞がりかけている。こちらはまるで問題ない。
「うん、こっちは大丈夫。問題は腿ですね。包帯、少しとらせてもらいます。」
短いズボンをさらにまくって包帯をしゅるしゅると解いていく。当て布をとると、そこには深く抉られたような傷。
………アンカーが刺さった痕に見える。