第145章 慈愛
私にできることをやる。
団長補佐の仕事は、不在にしていた間のことやこれからの新体制に伴って多少なりともエルヴィン団長の立ち位置も微妙に変わってくる。それをすべてちゃんと理解したうえでないと、勝手に何かを進めることもできないし……。
「――――私に、できるのは……。」
私は兵団本部からほどない場所にある兵舎に赴いた。
ここ最近の戦いで負傷し、兵舎で静養中の兵士の往診をするためだ。重傷でない限り、一度診察を受けたら基本的には静養になるけれど……怪我の経過は、診るに越したことはない。
それに――――、あの人に会って、もう一度話したかった。
貼り出されていた部屋の割り振りの名簿を見ると、彼がいる部屋は他の兵団から編入してきた人ばかりを集めている部屋のようだった。聞き覚えのない名前が並んでいる。
「――――マルロさん、フロックさん………、アーチさん……。」
その部屋の前に辿り着き、扉をノックする手がほんの少し躊躇うけれど、息を大きく吸って扉を叩いた。少ししてから鍵がガチャ、と開けられ、隙間から初めて見る、まだ幼い男の子が顔を出した。
「――――はい?」
「――――こんにちは、調査兵団団長補佐兼医療班のナナです。怪我の途中経過の往診に来ました。」
「――――ッ……は、い……!」
「……お名前を聞いても?」
「………フロック、です……!」
「―――フロックさん、どうぞ宜しくお願いします。調査兵団団長補佐、ナナです。」
深く頭を下げると―――、フロックさんは見るからに少し動揺した。
「あ、あのっ、俺調査兵団に編入しようと、思ってて……っ……!」
「そうなのですか。それは頼もしいです。」
にこ、と笑うとフロックさんは耳まで真っ赤にして俯いた。――――あぁこれは、またエルヴィン団長に嫌味を言われるかもしれないな。新兵を誘惑するな、と。
してるつもりはないんだけど……おそらくこの若い時期にありがちな、年上女性への憧れだろう。
微笑でかわす術も身につけた。