第145章 慈愛
ロイはまだ地下牢に入れられている。
本当なら、旧体制幹部と共に収容所送りにされるものだけれど、ロイは兵団に疫病対策の指導を提案・実施して巨人襲来後の疫病蔓延を阻止した功績や、特効薬を開発、その知見を改めて兵団に還元するかどうかがまだ完全に定まりきっていないため、戴冠式を終えてから兵団組織とヒストリア女王の意向により処遇が決まることになっている。
身内とはいえ、私もまだ会わせてもらうことはできない。
「……地下牢にいて、ロイは、大丈夫かなぁ……。」
ベッドに横たわったまま、小さくロイを想って呟くと、窓の外を眺めながら伸びをしていたハンジさんが私に目を向けて、眉を下げた。
「……そっか、なかなかお坊ちゃん暮らしだったんだね?」
「……はい……、好き嫌いも、あるし……、清潔な場所じゃないと……嫌がる子だから……。」
「それは確かに心配だ。でも―――彼の覚悟と信念に、私たちも随分助けられた。――――ナナ、ロイはすごいね。」
ハンジさんのその言葉が嬉しくて、思わず笑みが零れる。
ハンジさんが私を見る目が、“心配だ”と見て取れるようだ。私はそんなに顔色が悪いのだろうか。
「――――お腹、すきましたね。」
「そうだね。食欲があるのは良いことだ。何か持って来ようか?」
「いえ、もう起きられそうなので大丈夫です。この後少ししたら、自分で食堂に行きます。お気になさらないでください。」
ハンジさんの表情が、わかりやすく少し和らぐ。
「そう?なら良かった。私も戴冠式後の会議やらの準備があってさ、ごめんねもう行くね!」
「はい。行ってらっしゃい。」
ハンジさんは兵服に着替えて私に鍵を預け、早々に部屋を出て行った、と思ったら……なにやら部屋のすぐ外で誰かと会話をしてる。
「なんだろう……?」
短いやりとりの中で、ハンジさんが笑ったことだけはなんとなくわかった。話し終えたのか、また扉が開いたかと思うと、ハンジさんがすごく嬉しそうな顔を覗かせた。