第145章 慈愛
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ここ数か月で一番深く眠った気がする。
それはきっと、信頼している人の温もりが側にあるからだ。
柔らかな朝日が窓から差し込んで、ベッドのシーツに窓枠を歪ませた影を作る。
目を開いた先には、トレードマークの眼鏡のないハンジさんが眠っている。
まじまじと寝顔を見つめると、いつもは中性的に見えるその顔立ちも、綺麗な目と通った鼻筋、意外に長い睫毛で――――どこからどう見ても、美しい女性に見える。元々は家が王都の貴族家なんだと言っていた。ご両親はさぞかしハンジさんの思いとは違う期待を寄せたのだろうと想像する。
「――――綺麗で、強くて……素敵、だなぁ……。」
ぽつりと呟いて、またその寝顔をまじまじと見つめる。
決して広くない部屋で、もちろんベッドも一つしかないのに快く私を受け入れてくれた。昨晩は、ベッドの譲り合いで押し問答になった挙句、ハンジさんが無理矢理2人で寝ればいい!とぎゅうぎゅうのベッドに潜り込んで、2人で笑い合った。
小さな声で、歌を歌う。
この人にも、神の加護がありますようにと。
「―――――ん……ナナ?」
「……あ、起こしてしまいましたか?ごめんなさい……。」
「ううん。良い目覚めだ。」
ハンジさんが目を開けて、上体を起こした。
「おはよう。」
「おはようございます。」
すぐに起き上がりたいけれど、貧血か……なかなか体を起こすのが難しい。
「――――顔色があまり良くないように見える……。」
「……貧血かもしれないです。ごめんなさい、もう少し……このままでもいいですか……?」
「いいよ、気にせず寝てな!どうせ今日はエルヴィンもリヴァイも戴冠式でバタバタしてるしね。今日はゆっくりして――――、あ、そうだ。ロイと会えるのは、多分明日になるってエルヴィンが言ってた。」
「………はい。」