第145章 慈愛
「――――そういやさ、サッシュさんの弟が、傷が癒えたらうちに編入するんだってよ。他にも――――、マルロも正式に調査兵団に編入するってな。それ以外にもかなりの数の編入があって、途端に人気兵団になったらしいぞ。申し込みに来る奴もひっきりなしだそうだ。」
ジャンがどこかで聞きつけて来たのか、この一件で調査兵団に身を置くことになった人物について話し出した。
「―――まぁ人数は増えるに越したことはない………けど……なんだかな……複雑だ。」
口をついて出たのであろうジャンの本音は、今まで調査兵団に刃を向けていた奴らが掌を返したようにこっち側につくことへの違和感だろう。
俺も同じだ。
いつ裏切られるんじゃないのか?と多少の不安もある。
これまで一緒に乗り越えて来たこの面々のように――――これから信頼を築いていけるのか。
「あぁ――――、そういや洞窟の中で群を抜いて早い奴、いたな。あれがサッシュさんの弟かな。」
コニーはしみじみとあの時のことを思い出しながら顎に手を当てた。
「……俺は見てないからな。どんな奴だろう?気が合えば、いいけど――――……。」
「どうしたのエレン。元気がない。」
俺が声のトーンを落としただけで、ミカサはそんな些細なことにも反応する。
………こいつは本当にどうなってんだ。
………そういえばミカサの姓とリヴァイ兵長の姓は同じだったということも聞いた。アッカーマン……その血に秘められた力もまた、巨人となにか関係があるのか。
――――俺が羨ましいと羨望するその力は、どこから来ているのだろう。
その力も、俺の巨人化の力も全て出し尽くして――――あいつらを、殺す。
殺さなきゃ、ならない。
でないと、俺達はいつまでもこの籠の中に囚われたままだ。
頭の中がぐるぐるぐるぐる、良くない感情も伴って回る。
―――――苦しい。
この苦しみは、父さんの犯した罪と業と共に俺が背負っていく運命なんだろう。
「――――なんでもない……。」
「――――そう。……食事、ちゃんと食べなきゃダメだよ。」
小さくミカサに返答して、俺は一向に進まない食事に、嫌々手をつけた。