第145章 慈愛
「――――ねぇ見た?!こないだリヴァイ兵長がめちゃくちゃ綺麗な女の人と抱き合ってた!!」
「えぇ?!ちょっと私リヴァイ兵長狙ってたのに……恋人いるんだぁ……。」
「もう凄い噂だよ。あれ、団長補佐のナナさんでしょ……?!」
ようやく少し落ち着きを取り戻し、数か月前のような調査兵団みんなで食事をとり、生活する毎日が戻って来た。そんな食堂できゃあきゃあと騒ぐ若い兵士たちの話題は、もっぱらリヴァイ兵長とナナのことだ。
「………?!」
「――――どうしたのエレン。」
「え、いや……ちょっと待てよ、ナナは……エルヴィン団長の恋人だって……。」
「――――大人には色々あるんでしょ……。」
動揺している俺に対して、ミカサはどうでもいいと言わんばかりにため息交じりに言った。
「ナナさんとヒストリアは調査兵団の誇る女神だからな!そうだ、あのライナーだってナナさんのこと――――。」
ジャンがライナーの事を口に出して……ハッとしたようにその口を噤んで、まるでこれまでの複雑な思いも全て飲み込むみたいに水を飲んだ。
その様子を見て、空気を変えようとアルミンが口を開いた。
「………あ、そう……そう言えばヒストリアは?」
「戴冠式の準備でもう兵団本部へ行ったらしい。………明日からは本当に――――……女王様だからな。」
「あのヒストリアが……ねぇ……。」
コニーがふぅ、とため息をついて窓の外を見上げた。
信じられないことが起こった数か月だった。
でもまだ――――、始まったばかりなんだ。いつライナーとベルトルトが仕掛けて来てもおかしくはない。俺達の戦いは、まだ終わっちゃいない。
今度こそ俺の力でウォール・マリアをふさいで……俺の実家の地下室にある秘密を暴く。
そこにあるのは――――、父さんが何者だったのかという事実や、ナナが夢見た“外の世界”のことが書いてあるはずだ。ナナのためにも、外の世界は素晴らしいところだと、証明してやりたい。